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ガザ、イスラエル問題の正確な理解のために「パレスチナ」広河隆一、岩波新書

  • 執筆者の写真: 植松 大一郎
    植松 大一郎
  • 2023年12月7日
  • 読了時間: 4分

広河隆一著「パレスチナ」新版、岩波新書、2002年発行



この本の意義

たぶん今起こっているイスラエル・ガザ紛争の問題をより正しく理解するためにはこの本を読むしかないだろう。先日日本橋丸善に行くと中東紛争問題については2冊の本があるだけで一冊は「イスラエル」関係を主として扱っており、もう一冊は中東の専門家の臼杵陽「中東の世界史」くらいだった。確かにこの紛争が始まってからまだ1か月くらいしかたっていないのでこの事件を書ける人はいないのだろう。しかし、広河隆一の本を読めばすぐにわかる。今現在の事と同じことが繰り返されてきた。この本を読んでいると現在の事とほぼ変わらない。現在の報道のようにも感じてしまう。同じ悲劇が何回も何回も何年も起こっているのだ。


また広河隆一は、当初音楽会場にいた1200人のイスラエル人がハマスによって殺されたということに疑問を呈している。(彼の[X}参照ください。というのは、イスラエルのアパッチヘリで殺されたというのが本当らしい、といっている。夜のなにもよく見えないところでイスラエル軍がヘリコプターから機関銃を発射していたようだ。)


イスラエルはハマスをテロリストと呼んでいるがかつてはアラファトの率いるPLOもテロリストと呼ばれていた。イスラエルとハマスはどちらがテロリストなのか。問題はどちらがテロリストということではなく、何が原因でこんなことが起こっているのか、だ。

しかしこの問題は根が深く、長い歴史があり、そのたびに虐殺に次ぐ虐殺のあった歴史である。アフリカのどこかの民族の虐殺が問題にされるよりも長くこのパレスチナではイスラエルによる虐殺が大変な量で行われてきているのである。イスラエルから見ればパレスチナ人は全員死んでいなくなってもらいたいと思っている人も多い。シオニズムを助けた欧米がナチスの虐殺によって戦後、ユダヤ人の国を作る必要がある、ということにした。これは世界的同情の故だが一方でやはりユダヤ人を欧米から追い出したいという本音もあったようだ。最近分かったことだがドイツがそのことで揺れているという。ドイツでは反ユダヤ主義は犯罪というが、全てイスラエル・ユダヤ人国家がどんな行動をしても全面的に認める、ということではあるが、この考え方も批判されつつある。反ユダヤ主義という言葉も中身の問題である。



長い歴史

歴史の教科書ではないが、サイクス・ピコ協定、バルフォア宣言というようないわゆる帝国主義的列強のオスマントルコ領土の分割案からこの問題は発している。これについても本書は丁寧に詳しく書いている。


平和の頂点があった。

この本の一番中心と思われる箇所がある。オスロ合意である。詳しいことは省くが、ノルウエーの小さなシンクタンクが介在して、オスロで秘密裏にイスラエルとPLOが和平案を成立させた。このオスロ合意に基づいて、PLOアラファトとイスラエル大統領ラビンがパレスチナ独立国家を作ることにアメリカのクリントンの仲介によって、和平実現が成立するかに見えた瞬間があった。1993年暫定自治協定調印、94年カイロ協定と続く。今なお暫定自治政府がパレスチナ国家になりうる時期が到来していた。歴史上の希望のピークであった。

そして1995年パレスチナとイスラエルの平和を記念してテルアビブの平和集会にラビンは参加した。イスラエルのラビンが10万人の群衆とともに「平和の歌」を歌った。この歌は軍隊内で歌うことを彼自身が禁じていた反戦歌だ。この時にラビンが銃弾に倒れた。イスラエル右翼の青年が発砲した。この時が平和の頂点だった。そして平和が終わり、この瞬間に平和のすべてが崩れ落ちた。


彼のインタビュー

彼は写真家でありいろんな写真も併せて載せてある。かつ記者でもあり、イスラエルの子供たちにもインタビューをしている。その子供たちのパレスチナ人への反応は恐るべきものがある。


ハマスを育てたのはイスラエルだった。

また当初現在のハマスは、PLOの対抗軸としてイスラエルがサポートしていたこともあきらかにしている。なんと恐ろしいのはイスラエルかである。パレスチナ人にとっては最初に書いたようにテロリストはイスラエルである。イスラエルにとってテロリストはハマスであり、パレスチナ人である。


最後に

本書はある立場から書かれているということは言っててもいいと思うが、私としては平均的、公平的であると感じる。どういう立場で、どのように歴史を見るのか、で評価は分かれてしまう。

いずれにせよ早くこの悲惨な戦争を終わらせる必要がある。世界のリーダーが力を発揮して平和実現に向かってほしい。これが世界中の願望だろう。


 
 
 

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